水沢黄平「ごめんねツーちゃん」

ごめんねツーちゃん  ‐1/14569‐ (富士見ファンタジア文庫)

ごめんねツーちゃん ‐1/14569‐ (富士見ファンタジア文庫)

さてさて、本日の読書感想記録は、富士見ファンタジア文庫の新人さんです。銀賞獲った作品を改稿したものらしいですね。

あらすじを簡単に言うと、直球気味のボーイ・ミーツ・ガールもの。ただし女の子が、実は多重人格者で、同じ人物に、ツバサ、イブ、トーコなどが存在している。その人格の数たるや14569。主に登場するのは、さきほどの三人。主人公のオレ(=藍沢)は、イブに恋をする、というお話。

多重人格者は、それぞれ性格が違う。ツバサは、本人そのもので、サンタはオフに何をするの?と問いかけたり、練乳をチュウチュウ吸ったり、と天然ボケ気味、自由気儘。イブはサバサバとした感じ。好きなことを好きなようにという、ストレートな性格。ワダツミトーコは、13569の人格の中の最終ボスとでもいうべき存在。トーコはすべての人格を消して、トーコに統合しようと試みる。つまり、トーコは、最終的にはツバサも、イブも消してしまおうとする。トーコは優等生で、大人然とした存在感。

同じ顔で、同じ服を着た、同じ人物。だけど、中身が違う3者。トーコも、藍沢くんへ恋をする。だけど藍沢くんが選択するのは、イブ。ツバサでもない。好きになった女性(イブ)が、消える。この衝撃。そして、トーコに対する強烈な拒絶感。

拒絶感の正体は、やっぱりイブ、ツバサと形成した時間と思い出。トーコは同じ人物だけど、それまでに形成したモノが違う。周りは、ツバサとして接してくるから、当然トーコは反応に困る。上手く適応しているようで、出来ていない。優等生でお嬢様然としたトーコには、友達とボケて突っ込むという芸当はできない。だからこそ感じる、居場所の不在。イブ、そしてツバサが創り上げてきた居場所に居ることが出来ない。

結局、トーコも藍沢くんに恋するが、でも成就しない。藍沢くんは、イブとの時間を積み重ねてきて、イブと恋したんだから。なんかなー、トーコのことをかわいそうに思わなくもない。ハイスペック野郎で、でも執着もしないユキムラは、ツバサに妹の姿を重ねていたのか。ツバサには執着していたように思えた。自殺したのは、ツバサという執着の対象が消失するから?

結局イブもツバサも消えないが、282頁までの盛り上がりは読み応えがあったな。

いやー、作中にも、そして最初の1ページ目にも登場するように、作者は、サリンジャーのライ麦畑でつかまえてが本当に好きなんだなー。例えば、読者に語りかけようとする文体や、オープニングのところの冬のシーンなど。これを、オマージュと呼ぶのか、エピゴーネンと呼ぶのかは、次回作次第かなー