川上亮『僕らA.I.』
- 作者: 川上亮,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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エイジとリリコ(姉)とイクミ(妹)の家族の物語。異分子として、意識だけの存在、チカ。3人の身体をめぐって、4人の意識が競合する。ただし、事実上、エイジは競争から外されている。
「家に帰るまでが遠足だぞ」というのは小学校のときに先生に言われた経験があると思うが、この小説は、「あとがきまでが小説だぞ」というべき。
僕には、家族のための行為はなんだって正しいと思えたのだ。[231頁]
チカのために、そして、エイジとリリコのために、自分の意識を消すことを決意するリリコ。[201-203頁]
リリコとイクミという家族のために、翻意を迫るエイジ。
だけど、リリコは、最後は名演技によって自分の意識を消してしまう。
あの子がかわいそうになったの。自分勝手な姉だとは思うけど。でもゆるして。[228頁]
このリリコの選択は、責めることができないだろう。イクミならば、身勝手だと思うけど。
俺は、イクミのような生き方は、嫌いじゃない。むしろ、リリコのような選択よりも、イクミに共感を覚える。イクミの台詞を以下、抜粋。
「だれかのために犠牲になるなんて。それで命を投げだすなんて。それは、そんな行為は、とても卑怯なことだわ。」
「自分のために生きる方がずっと難しいの。自分のために生きるとき、人はいつだって悩みにさらされる」
「人のための行動はちがう。後悔がない。どんなに非効率であろうと、やり方がまずかろうと、人は自分が誰かのために行動した、という事実だけで満足できてしまう。」
「人のために命を投げだす、なんてその最たるものだわ。自分が誰かのために生きたのだ、という最大の満足とともに、永遠に行動を選択する悩みから解放されるわけだから。」(209-210頁)
「私はその同胞をなんとしても守るわ。自分が犠牲になるのではなく、全員を守る。そのためにこの子をっ消去するの。この子の意識を。それが残酷なことだっていうのはわかってる。それでも」
「邪魔はしないで」(222-223頁)
イクミの強い覚悟。すべての責任を背負ってまで、チカの意識を消し、リリコの意識を取り戻そうとする覚悟。自分が死ぬ危険性もさらされながらの行動。
その強い覚悟を生み出すのは、同胞。エイジの言葉では、家族。他人であって、自分でもある存在。消えてしまえば、自分自身も消えてしまう存在。
自分自身を守るための行動だからこそ、全力になれる。
最後までチカ(inリリコの身体)と和解しようとしないイクミの生き方も嫌いじゃない。人は、自分を殺そうとした人間とはまともに生きれないのだ。天津飯のセリフはよく分かる。
リリコの選択は、家族のためなのか。それとも自己犠牲でチカを救うためなのか。見ず知らずのチカのために自分をあっさり殺してしまうのはさすがに変かな?
それだと。
リリコは、家族、同胞のために、最善策ではなかったが、次善の策を選択したのだ。家族のための行為はなんだって正しいのだ。
固い絆で結ばれ、永遠に離れることができない家族、同胞なのか、それとも一時的な関係なのか。同胞の範囲は曖昧なんだろうが、それでも変わらない家族、同胞の範囲というのはあるのかもしれない。
星5つ。