有島武郎

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

小さき者へ」と「生まれ出づる悩み」の2編を収録。あー、大学に入ったばかりの頃の自分が読んだら有島の魅力にとりつかれていたな〜と思う。

・「小さき者へ
子供を想う父親の話というよりも、子に対する父からの手紙。これ、最後のあたりは声に出して読むと泣けそう。
行け。勇んで。小さき者よ。
直球どストレート150キロな言葉。いや、160キロかもしれない。小細工がない分、心に響く。

・「生まれ出づる悩み」
岩内の漁師の話。芸術を志すも事情により途中でやめ、趣味で絵を描きながら、自分の生活を悩む。漁師は死と隣り合わせにある。死の世界がすぐ真下の海に広がっている。だからこそ、生きることを自覚できる。生きる自覚という幸せ(88頁)。
当初の高慢さというか、若さゆえの万能感が削られ、自己を客観的に認識できたとき、他の対象への観察眼も体得するんだろうか。
岩内という北海道の一地方のお話なんだけど、なまじ事実を色々と中途半端に知っている分、「生まれ出づる悩み」は北海道の自然を描いた作品だ、という評価があるけど、そんな気分にはなれないんですよ。これは自分の事情だけど。
ここでも作者は最後に読み手に語りかける。青くさいけど、小細工がない分、心に響く。

星4つ。