桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

なんか、今更だけど、読みたくなった。最新作を追いかけて、消費するのもいいけど、過去の名作を読んでみるのも一興。最近、桜庭一樹のインタビューが朝日新聞にも掲載されたし、角川版も出て、すっかりメジャー化したけど、ここは敢えて、百合百合した表紙の富士見ミステリー版で。

あー、「少女に向かない職業」のプロットなんだな、と初読の感想。「死んじゃえ」。このセリフの意味を解明したのが、「少女には向かない職業」。
幻想、夢、非現実という砂糖菓子の弾丸を撃ち続けるしか選択肢がない藻屑ちゃん。自分を人魚と言い張る。ふわふわした、現実感のない、中二的世界観。それに対し、現実という名の実弾を打ち込む山田なぎさ。貴族として生活するお兄ちゃん。
砂糖菓子の弾丸しか撃てない藻屑が、初めて現実の世界に気付いた瞬間、すなわち、花名島をモップで殴るとき(170頁)。藻屑ちゃんは、選択肢がない、夢の世界で生きているからこそ、父親が拘束できる。でも、そこで現実の自分の意思を見出したら、世界が崩れる父親は、手元に置けなくなる。父親の愛情って、殴打するしかありえない。愛情、というよりも、ゆがんだ独占欲、かな。

なんか、救いがない小説だよな。現実に帰還したお兄ちゃんも。実弾を撃つことを再認識した、という意味では、夢の世界で生きていた方が良かったような気もするし。でもなー、現実に帰還するとなったら、そうするしかないもんね。
あとがきのことだけど。中学生のときって、現実を無視でき、他の選択肢もない頃だから、思考が狭められるんだよね。わかるなー、藻屑ちゃんのモデルとなった、あとがきの女の子の気持ちも。人は現実に戻るときに、自己を問うという試練を経るんです。そのときは非常に辛いんです。自分が崩壊する危機を感じるんです。友彦も、なぎさも、今回で、試練を経たなーと。それ、すっごく辛い、辛さではトラウマになるくらいの、試練。

今回も、考えさせられた。星5つ。

2009年5月30日追記 今のyusuke22は、なぎさの担任の先生なんだなと。この本の感想も、自分の過去を振り返っての立場からの感想だし。