犬村小六「とある飛空士への恋歌3」

シリーズ最新刊。今までの感想はこっち↓

http://d.hatena.ne.jp/yusuke22/20090820/1250783325
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とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

表紙の絵が示す通り、今作は緊迫感があふれる展開です。今回のテーマは、生きることと死ぬこと。犬村小六の臨場感溢れる筆致で、読者にも死が眼前に迫っていることを感じさせてしまう。

戦死した人にとって一番辛いのは、自分が死んだことで大切な人が傷ついて、生きていけなくなることだと思う。

一番いけないのは、残った人が元気をなくしちゃうことだと思う。弔う気持ちは大事だけど、悲しいのをいつまでも引きずったり、明るさをなくしちゃったりしたら、戦死した人が悲しむと思う。

残った人には、戦死した人をしっかり弔って、それからその人の分まで明るく生きる責任があるんだと思う。それが死んでしまった人への一番のはなむけなんじゃないか、って・・・・

フクハラ・ミツオの死ぬ前の言葉(156頁)。チハルと良い感じの関係を築いて、この言葉。どう考えても死亡フラグでした(226頁)。

でも、今回はそれだけじゃない。

自分の身分を鼻にかけて厭な奴だけど、親父譲りの指揮監督能力の高さ。敵を突破するときに先陣を切る勇気と責任感。

  • ウォルフガング・バウマン

寡黙な漢。

カルエルとアリーのすぐ近くで起きた、突然の散華(=戦死)。ものの5分も経っていない間で起きた死。私は読者として、この二人の死までは予期できませんでした。

絶対に生き残れっ!それがファウストへの手向けだ!!(296頁)

今回は、似たようなセリフが何度も登場してくる。死者に対する、生き残った者の責任。散華なんて表現を使っているが、それは言葉を言い換えただけで、死という事実は変わらない。あー、自分の表現能力の欠如がもどかしい。文に起こして見ても自分の感情を100パーセント表現できない。「死んだ者への責任」。うーん、文に表現している以上に、自分はこの言葉が強く心に突き刺さっている。

死を恐怖するイスラの人々。死を恐れずに特攻してくる敵軍。読んでいて、敵軍の心理が全くわからず、恐怖感を覚えた。何を考えているのか?何のために攻撃してくるんだろうか?遠い昔、神にそう命ぜられたから?それがその役割だから?全くわからない。意味不明。信念の欠如は、逆に正体不明の怖さの源。

アリーとカリエルの関係も、死と隣り合わせの中で少し進歩?

今日はちょっとかっこいいぜ、バカ弟!(288頁)

くそったれの旅だけど、きみが一緒ならいいかなって(314頁)

あんたがくれたいまが、あたし大好きだよ。こんな冒険できるの、あんたのおかげだから

ウォルフやファウストが死んじゃったことは悲しいよ。思いっきり泣いて、追悼してあげなきゃ。でも、いつまでもこのことでくじけたり、いじけたりしたらダメだと思う。いなくなった人のことを絶対に忘れずに、してくれたことにいっぱい感謝して、それから、その人の分まで一生懸命がんばって生きるの。それが一番、ウォルフやファウストも喜んでくれると思う

ありがと、お兄ちゃん。
かっこよかったよ、お兄ちゃん。ヘタレは卒業だね

死の淵を経験して、アリエルが、「女性」に変貌を遂げた瞬間(348頁)。積み重ねてきたものが違う二人は、息を吸うように、お互いを求めあう。お互いがお互いを必要としている、温い空間。

さて、ファナが登場しているということで、「とある飛空士への追憶」からちょっと過ぎた時代だということが判明。海猫さんは、もしかしてアノ人?ファナとアノ人の関係はどうなったの?海猫さんにとって、「大切な人」ということは、、、もしかして、、、、???!!!まー、これはわからないので、次回のお楽しみですか。さて、引っ張り方が見事で、次回への期待もワクテカが止まりません。星5つで!!