綾崎隼「蒼炎時雨」

「しぐれ」と打ち込んでみたら、「紫暮ひすい」という予測変換の名前が出てきてしまって、うぉっとなってしまいました。さて、このネタが分からない人はスルーするとして、ま、この本も、この「紫暮ひすい」同様、デビュー作です。

以前、紅玉いづきさんのガーデン・ロストの読書感想を書いたときに、私は、以下のように書きました。
http://d.hatena.ne.jp/yusuke22/20100304/1267717056

メディアワークス文庫は、おそらく想定している読者、販売対象が自分の世代で、直撃ですよー。うーん、いわゆるラノベに対する物足りなさを満足させる小説。しかも、仕事で忙しいから、単巻で完結する構造。他のメディアワークス文庫の作品にも手を出してみようかなー、販売戦略に乗せられてみようかなーと思います。

販売戦略に乗せられて買ってきました!静月遠火さんのモノも買おうか迷ったんだけど、あらすじ読んで、2作目からデビュー作のリメイクかよ!と思って購入は見送り。

さて、読書感想でも行きますかー。

蒼空時雨 (メディアワークス文庫)

蒼空時雨 (メディアワークス文庫)

この小説の感覚を一言で表すならば、「孤独だなんて自分で思っているだけで、そんなことないよー」という感じ。

一応、主人公は零央くんと言うことになっているのかもしれないけど、私は、朱利先輩と紗矢かなーと。表紙絵も、この二人だよねぇ?
各登場人物にそれぞれが接点がある形で進むんですよね。で、絶望パート、やる気が喪失するパートと、それがひっくり返るパートで構成されているんですよ。それぞれの登場人物が恋人と幸せになる構造*1。だから、なんとなくだけど、紗矢が出ていった時も、これで自殺はないだろーと思っていました。

ずっと、好きになった人に好きになってもらえないなら、死んでも構わないと思っていました。本当に大切な人に想ってもらえないなら、死んだって一緒だと思っていました。でも、そんなの間違っていたんです。好きな人ができて、こんなに幸せな感情を知ったのに、死ねるはずがありません。

294頁の紗矢の台詞。あー、これがこの本を表しているなぁー。だって、双子の姉も、禁断の恋だけど、義理の兄への恋愛感情をを持ち続けて、生き続けている。それもやっぱり、好きという感情があるからなんでしょ。もう義理の兄は死んだけど、好きという感情は、やはり幸せの源泉なんだから、生きていると、兄からの手紙も届くし。孤独ではない。絶望するにはまだ早い。

子供を産めないというのは、女性としての役割を果たしていない。この本には二人出てくるんですよね。双子の妹と、紗矢。女としての欠陥。それを自覚した上での、絶望。自分に女性としての魅力がないんじゃないかという焦燥感。やっぱり、子供を産めないというのは、女性をどん底へと叩き落すことなのかね。だからこそ、作者は二人も配置したのか。それでも、女性としての生殖機能は持っていなくても、恋愛はできる。絶望に悲観することはない。

うーむ、これは総合評価で星4つですね。丁寧な伏線に好感が持てました。

補足:他の方の感想と作者のインタビュー
http://www.booklines.net/mt/mt-tb-t.cgi/3520
http://news.dengeki.com/elem/000/000/230/230488/

・・・まぁ、確かに有川浩礼賛になっているのはあんまり好きじゃないけどさ。選んで貰ったんだから批判は出来ないよなぁ〜

*1:ただし零央くん(本物)には恋人はできない。