清水マリコ「君の嘘、伝説の君」

君の嘘、伝説の君 (MF文庫J)

君の嘘、伝説の君 (MF文庫J)

さてさて、最近続いている清水マリコを読もうシリーズ。今回は、「嘘」シリーズの二作目。まずは三作目から読んで、一作目。で、次が二作目か。読み方として、少し邪道気味。

中学生くらいにありがちな妄想*1に囚われた・神鳥智奈=中木ミカという二重人格。どちらが本物かという話はしないけど、操くんは智奈の方が好きなんだよなー。

これが斎藤るなも陰鬱だった自分を隠して、明るめ、派手めに変身。これは、本来の自分を無理に隠すことに失敗してしまった例。智奈がさせられたことと似たようなことは、子供社会でも普通に行われているんですよ。ひな子は、るなに対して直接手を下したわけではないけど、暗かったるなに対する優越感を感じていた。でも、明るくなってしまったるなと自分がいると、自分の存在が相対的に弱くなってしまう。だから、るなが陰鬱になったことを喜んでしまう。

智奈=ミカと、るなが重なる構造。でも両者の違いは、智奈=ミカの場合、どちらが本物かわからないこと。るなは根暗が真実。そこから乖離したら、無理が生じる。さて、智奈とミカ、どっちが本物?最後のシーンは智奈+ミカで新たな人格というかネイルと融合したピッコロさんみたいになったってこと?どちらにせよ、現在の智奈が、主人公の浅井くんが接していた智奈でなくなったことは確か。

小説の雰囲気は好き。誰もいない寂れた団地にひとりで住む少女。目をつぶって電車に乗りたい。目を開けたときに広がる海の瞬間移動の感覚を味わいたい。智奈の不思議な雰囲気が出ている。

あえて不満を言うと、嘘妹や嘘庭と比べると、ドキドキ感が物足りないなぁ。謎が引っ張らないというか、謎が展開されない。智奈の存在自体が謎になっているから。主人公の明確な目的(壊れたお話を集める、中山りあとの偶然の接触から気になり始めること)がちょっと弱い感じ。
主人公の少しカッコつけた作文も、確かにカッコいいこと言おうとしている嘘だし、嘘の人格たる智奈がそれでも共感しようとするのはわかるんだけど、あんまりそれが物語の中心では引っ張られない。
この点を考慮して、星3つですねー。

*1:今だったら中二病と呼ばれる類のもの