橋本紡「半分の月がのぼる空5」


あー、ちょっとずつだけど、物語が進んでいくなぁ。5巻まで読み進めてわかったことなんだけど、このシリーズって展開がものすごーくゆっくりなんですよね。本当に一歩一歩。「なんだと・・・・、卍解!」の漫画も、展開は遅いけど、それとは違う。成長しているようで、成長していないようで、でもやっぱり成長している。

裕一が、里香を砲台山へ連れていった12月の夜。あのときの裕一はガキだった。本当に、自分のことしか考えていないガキだった。でも、里香を受け入れるということは、裕一の残りの人生すべてを犠牲にすること。静岡の老夫婦を見て、夏目が学ばせたかったこと。17歳のガキなりに覚悟はしていること。でも、里香の母親から見ると、まだ覚悟はしきれていないこと。でも。それでも、裕一は、自分がガキだとわかった上で、覚悟をしている。届かないけど、届こうともがいている。

みゆきも、裕一のそんなところを感じたのかな。もがくって馬鹿みたい。でも、もがかないと手に掴めない。お前の手はなんのためにあるんだ、と夏目の弁。

この舞台は、世界が小さい。自分たちの周りだけ。展開も小さい。一言で終わらせると、裕一がガキなりに里香を受け入れる。それを見て、周りも勇気を手にする。それだけなんだから。でも、登場人物がそれぞれの悩みを抱えて、克服しようとして、でも克服できなくて擦れ違っていて、それに悩んでいる姿は、自分にもそういう経験が少しでもあって理解できてしまう。

ありのままの自分を受け入れて理解してしまうから、小説を読んでいても、現実感から離れられない。登場人物の感情を過剰に受け入れすぎてしまう。特に、悩みやすれ違い。面白い小説なのは間違いないです。だけど、理解しすぎてしまう分、続けて読むのがちょっと辛いな・・・・

個人的に、この巻の中で好きだった表現。

彼女の身体に触れることはできなかった。指一本足りとも届かなかった。だけど心には触れられた。
ああ、そうさ。
確かに触れられたんだ。

これ、この巻の最初の方に出てくる台詞。36ページ。
この後に、裕一がみゆきにチボー家の人々を買ってもらって、さっとだしてくれたみゆきに罪悪感を感じて落ち込むんで、さらに里香の本心がわからなくて悩むんだけど。でも、お互いの心を撫であっているよ。