犬村小六「とある飛空士への恋歌」4巻

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

少年は真実を知る。恋する相手が、自分をどん底にたたき落とした憎き相手だと。しかし、イスラにはもうひとつの真実も存在していた。少年の異母兄弟がいた。異母兄弟は少年を憎んでいた。そう。憎んでいた。過去形。異母兄弟は少年に対する憎みを昇華していた。もうひとつの真実。周囲の成長についていけなかったのは少年だけだった。成長していないのは少年だけ。

「お前だけがいつまでも過去に囚われていて、そこから一歩も動けていない」*1

そう、これがもうひとつの残酷な真実。

少年は気付く。アリエルやその家族と出会ってからの日々も決して不幸せではないことに。だから、やっとニナ・ヴィエント=クレア・クルスを許せる。クレアの煩悶を救える。「生きろ」とこの言葉を伝えるだけで。

犬村小六の文体って、やはり戦場の独特の緊張感を煽り立てますね。

「愚かな選択をしました」
「そうだね。馬鹿だよね、ほんと」
「しょーがねーよ、バカだもん。おれら」

今度の飛行は、ただの蛮勇とは違う。前の戦いにおける友の散華を受け入れた上での勇気。戦場が怖い。この一点に尽きる。怖い。だけど負けたくない。負けたらイスラの負け。自分の周囲を救うためには負けるわけにはいかない。

「行こうぜ、ベンジー。これからはおれたちが観測機だ」

うおおおおおおおおお!!熱い!!!!熱いよノリピー!!!!!
逃げてばっかりのノリアキから出てきたこの台詞が今回読んでいて最大の燃えるシーン。「男だったら戦わなければ」という決意が伝わってくる。待っている人たちのために。そして、死んでいった戦友のために。

このとき、ノリアキとベンジャミンは死を覚悟していたし、そのつもりだった。読者である私も、多分これは死ぬなと思って読んでいましたが、バンデラス先生!!こんなところで活躍とはっ!!!帰還したときの安堵感は、ノリアキが身近にいる気分。

もうね、200ページから先はページをめくったらどうなるんだろう、とドキドキしながら読んでいました。私、いつも行き帰りのJRの中で読書しているんですが、電車が駅に到着してしまって残念に思ったくらい。

さて、泣いても笑っても、王道ファンタジーも次回が最終巻。どうなるんでしょうね。今作の評価?言うまでもなく星5つです!

*1:169頁