野村美月「文学少女見習いの卒業。」

“文学少女”見習いの、卒業。 (ファミ通文庫)

“文学少女”見習いの、卒業。 (ファミ通文庫)

さてさて。文学少女見習いシリーズの最終巻。コノハくんの卒業と、コノハくんが遠子先輩の立場を追体験・・・という要素はそんなに強いわけでもなく。

以前の巻の感想↓
http://d.hatena.ne.jp/yusuke22/20090503/1241361064
http://d.hatena.ne.jp/yusuke22/20100104/1262625715

瞳ちゃんの恋って少女漫画みたいなだなーと思いながら読んでいました。

瞳ちゃんは、前作の最後でコノハくんとキスしてしまった氷雪系クール美少女。今作は夏目漱石の「こころ」を軸に、瞳ちゃんの昔の家庭教師・忍成良介と櫂くんを、それぞれ先生、Kに重ねあわせる構造。ただし、瞳ちゃんも良介も、立場がコロコロ入れ替わる。

で、その瞳ちゃん。その真実は忍成先生への恋。自分の想いを相手に伝えられないまま、櫂くんと付き合う様子を見せたりと、不器用だけど。うー、っていうか思いっきり言っちゃえよー、と少なくとも瞳ちゃんには思った。アフリカでも適用できるように、とイナゴのお弁当がこんなところで伏線回収とは。なんか・・・瞳ちゃんは大真面目にやっているんだけど、読んでいてふふっと軽く笑ってしまった。

菜乃ちゃんはデキる子なんです。前作のラストで瞳ちゃんに「ウザイ」と言われても、相手の気持を分かった上での行動なんです。相手を思った上での直情、ストレートなんです。だから、菜乃ちゃんは誤解されやすいけど、本当は相手を理解しているんです。こんなに苦しいなら愛などいらぬと叫んだサウザー様も、本当は哀しみを知っていたように、理解することは辛いんです。だから、辛さを誤魔化すために、敢えて表の行動では直情的に振る舞ってしまう。これは私のパターンでもある。

今回も、文学少女見習いの正鵠を突いたツッコミ!

なにをバカなこと言っているんですかっ!漱石のこころを言い訳に使わないでくださいっっ!

文学少女シリーズに登場する人物に対して誰しもが思ったことを、この場で見習いの菜乃ちゃんが言い放つ。「こころ」に限らず、他の作品でも同じことだと思います。

真実はわからないし、登場人物たちの将来はわからない。なら、自分も思いのままに「想像」したっていいんじゃない?確かに、先生が自殺したって思われているけど、ひょっとしたら「先生」が自殺する前に「私」が到着する可能性だったあったよな。ひょっとしたら将来は変わるかもしれない。

しかし、真実の奥にはさらなる真実が。先生はロリコン・・・だった。櫂くん→先生は永遠に成立しない。しかも、瞳ちゃんと先生は、心の奥底ではお互いを想い合っているのに誤解から櫂くんを傷つけてしまう。「死にたがりの道化」で登場した、地獄の業火で焼かれる眞鍋さんと添田さんの組み合わせと言い、野村美月さんは愛情のもつれがレディコミみたいで、厳しいぜぃ。

コノハくんもソラに似ているの映画版を直視できるようになって、こんなところでも遠子先輩のやってきたことを受け止めているんだなーっと。絶対に越えられないと思っていた裏切りでも、綺麗な世界の裏側にある汚い真実でも、受け入れられる。菜乃ちゃんを見て、自分のことを思い出し、自分を遠子先輩に重ね合わせる。あー、これは、コノハくんにとっては遠子先輩の思い出を復習していることになっているのかー。

君の前向きさと明るさが好きです。
勇敢さと、困っている人を放っておけない優しさが、好きです。
ぼくは、後輩の日坂菜乃さんが大好きです。

菜乃ちゃんの居場所。遠子先輩は思い出の人だけど、でも、菜乃ちゃんだって、コノハくんにとっては、1年間過ごした大事な後輩。そして、菜乃ちゃん自身は気づいていないけど、遠子先輩が提供したプログラムの続編を、勝手に実行した人。菜乃ちゃんだけの思い出ではない。菜乃ちゃんは、確実に、コノハくんの中で重要な場所を占めている。文芸部というだけではなくて、作家・井上ミウとしてのコノハくんにとっても。

最後で、菜乃ちゃんが、贅沢な片思いと評するけど、本当にそのとおりだなー。想いは永遠に成立しない。でも、ずっと隣にいる。そして、恋のライバル・ななせ*1とも仲良くなってしまう。最大にして最強のライバル・天野遠子の壁は越えられない。ななせでも絶対に無理だった。それでも、菜乃ちゃんは、コノハくんの中で、居場所があった。それは恋じゃないけど、大事な心の中の居場所。贅沢な文学少女見習いもこれで終わり。さて、菜乃ちゃんの新しい恋がどこで始まるのか、見届けたい気持ちもあるけど、このシリーズはこれで終わってしまうのですね。綺麗な締めでした。星5つで!

*1:今作はななせは笑いをとってしまうキャラになっています。王道ツンデレ。ななせにとってもコノハくんへの恋を克服というか、思い出に昇華できたみたい。