新海誠「小説・秒速5センチメートル」

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

小説・秒速5センチメートル (ダ・ヴィンチブックス)

今日はラノベではなく、一般書。職場の方がアニメ映画が面白かったと言っていたので、興味を持って本書を購入。本書はアニメ映画のノベライズらしいのですが、私は見たことはありません。ノベライズと言っても、映画の制作者自身のノベライズということなので、これはこれで半分原作みたいなもの。

さいころ、といっても中学生だけど、そのときに仲がよかった女の子との思い出にずっと縋ってしまっている主人公。なんかね、抜けだしていない。転校した直後は当然理解できるけど、高校に入っても同じ。思い出に縋ってしまっているから、今の周囲を見ていない。だから、近寄ってくる相手も傷つけてしまう。主人公と近寄ってくる相手は、見る視点が違うんだから。
東京の大学に進学したあとでも、思い出に縋ることは少なくなったけど、寄ってくる相手と違うところを見てしまって、傷つけるのは同じ構造。

この10年、いろいろな人の事をほとんどなんの意味もなく傷つけ、それは仕方のないことなんだと自身を欺き、自分自身も際限なく損ない続けてきた。
なぜもっと、真剣に他人を思いやることが出来なかったのだろう。なぜもっと、違う言葉を届けることが出来なかったのだろう

付き合っていた彼女と別れ、仕事も辞めたあとで、主人公が今までの人生を振り返って吐いた台詞。・・・・・・・・特に第三章以降の主人公の行動が自分と重なる。読んでいて自分の嫌な過去を思い出してしまって、本当に痛くなった。考えたくなくなった。相手ーこれは男か女か関係ないーがいるのに、相手は自分に対して真剣に接してくれているのに。自分はそれに報いたのか。

社会人となった主人公の生活も、ほんとうに自分と同じだった。他を一切顧みないで打ち込み、終電で帰ってくるのが当然だと思っていたし、そうするべきだと思っていた。周りがいて、それに支えられていたからそんな生活が成立していたのに、そこに気付いていなかった。
自分も、大学入ってからずっと高校のときに仲よかった女の子との思い出に縋っていたこともある。でも、周りは成長していた。取り残されたのは自分だけ。
本当は、この主人公を通して感じた自分の生活についてもっともっと言いたいことはあるんだけど、これを書いたら自分の心の奥で人に見せないように閉まっている思い出や感情をさらけ出すことになるので、書きたくない。それくらい、主人公が自分と重なる。

他人を理解できるようになったら、あるいは自分の周囲も変化に富んでいることに気付けるようになったら、あるいは街にはそれぞれの時間帯の匂いがあることを思い出したら、もう思い出に縋って生きていく必要はなくて、思い出として消化できる。ラストは、二人が結ばれないという結末で良かったと思う。思い出は思い出として受け止めなければ。過去を見ても現在は見えない。