紅玉いづき「ミミズクと夜の王」

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ども。今回の読書感想は、3年前に出版された、紅玉いづきさんのデビュー作。おせぇよ!というツッコミはスルーの方向で。11月10日に新刊が出るんだけどね・・・・紅玉いづきさんとくれば、金沢出身で、以前、「ガーデン・ロスト」の感想を書いたこともあります。となりの801ちゃんでも作品が取り上げられていたりと、気になっていた作家の一人でした。アニメイト電撃文庫フェアだったのを機に、購入。

こう・・・・読んでいて、愛する人への思いからくる交錯、対立と、自分の想いを正直に吐露するまっすぐな台詞が心の奥底にグサグサ来ますね。

ミミズクは盗賊の村から夜の王に会いに来た人の娘。村では奴隷。でも、本人は人間ではなく、家畜と同位置だと認識しているんです。だから、夜の森を統べる魔王に「食べられる」ことを望む。奴隷として飼い慣らされてしまったミミズクは感覚が麻痺。村ではリンチの対象。痛みだけ。ミミズクは、村での行為を無邪気に告白する。

「こーれーはー、焼きごてですなのよー」
「ほらー、牛とかー、羊とかにつけんのー。ジュってやつー。あれと一緒ー。むちゃくちゃ熱かったんだよー。鉄真っ赤でねー。ジュウってなってギャアってミミズクさん倒れちゃったーよ」

「ミミズクはナイフを使うのが嫌いなーのよー」
「一番嫌いなお仕事、あのね、人をさばくの」
「死んでる人ー、大抵村の人が殺した人なんだけどー、そゆ人の、お腹ビリビリーで胸元こうザクザクーってね、そんで、ぐちゃって手ぇ突っ込んでー、ぐるぐるー心臓とか、取り出すの」

ミミズクにとっては、これが日常。逃げ出せない日常。だから、感覚も慣れてしまう。それが、つい開放されてしまうと、魔物の王に会いに行く。自分が食べられるために。

でも、魔物の王・フクロウは、ミミズクに冷たい。あしらうだけ。・・・と言いつつも、存在することを許す。ミミズクの過去を知り、苦しみを知ったから。ミミズクにとっては、村には居場所がなくて、夜の森が居場所。「好きにしろ」と、存在することを許されるフクロウの横が幸せで、安心して寝られる。

ここからが、二人が離ればなれになるんだよねー。夜の王を討伐しようと、人間の王が攻めて来る。夜の王は捕まえられ、ミミズクは、「魔王にとらわれていた可哀想な女の子」と認識されてしまう。かわいそう、かわいそう、と。見知らぬおばあさんに抱きしめられたり。でも、ミミズクはなぜおばあさんが泣いているのかもわからない。同情された、という感覚を理解できないから。ミミズクの感情が共有できるようになったのは、「救出された」後の生活。でも、ミミズクの居場所は、そこじゃない。夜の王の隣。

ミミズクの選択。「自由になった」あとの選択。

許してくれなくても、傍にいるわ。ねえ、あたしを食べてよ夜の王様

そう、最初に選択はあった。幸せの青い鳥はもう最初から織り込み済みだったんだ。

嬉しかった。
嬉しかったの。
あなたは何もしてくれなかったけど。
あたしの話を聞いてくれた。
冷たい目で、お月さまみたいな綺麗な目で、ミミズクのことを見てくれた。
あなたのその目にあたしがいたことで。
初めて自分が、生きていることを知ったのです。
ありがとう。
「会いたいよ、よぉおおおおお・・・・・!」

ファンタジー小説と見せかけて、実はド直球の恋愛小説だった、というオチ。聖騎士サマと奥さん、王たる父と、手足が不自由な王子。それぞれに愛する者どうしの組み合わせがあるから、思惑もあるし、動く動機にもなる。ミミズクのぐさりぐさりとくる台詞が染み入る作品でしたね。今後、紅玉いづきさんは、私の中では《ゆるりと追いかける作家》リストに登録されました。