おかもと(仮)「伝説兄妹!2 小樽恋情編」

伝説兄妹2! 小樽恋情編 (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫)

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まさかのまさかで出てしまった一冊。前作は、あまりにも大人向けのくだらなさに呆れるのをさらに突き抜け、逆に面白さを感じてしまった。

今回の内容は、精神的童貞文学。主人公の柏木は相変わらずダメ人間。授業中も寝る。勉強に身が入らない。試験諦めて欠席。そのまま夏休み突入。でもモテたい。しかし現実は、モテない、冴えない、単位取れないの三重殺。

序盤から中盤のあたりで、主人公・柏木のモテたいという気持ちがリアル過ぎる。自分を見ているようで、乾いた笑いしか生まれてこない。読者である私の心に直撃した文章や台詞はいくつもあったのですが、例えば、こんな感じ。

俺の知る女たちは、彼女たちの都合で全てを決めてしまった。俺にはその都合を打ち崩すことが出来ないのだ。いつだってそうだ!俺が好意を向けると、ほほえむ美女はすぐに困った顔になり、俺を拒絶する!決して超えられぬ硝子の向こうで女たちは笑い、俺は硝子越しに卑屈にほほ笑むだけだ!

もてない、灰色と暗黒の間を往復する悲しみの青春を過ごす男達はやがて己で己を去勢してしまうのだ。敗北の記憶だけが脳に刻まれ、臆病になり、好きな女の子ができても見過ごし、行動せず、ある日彼女を隣人に奪われ、またある日その隣人の部屋から好きな女の子が出てきて、しかも若干着衣が乱れていることに気づき、「別にあんな女好きじゃねえし」と己に言い聞かせ、翌日何もなかったように接し・・・・そして結局なにもしないのだ!ちくしょう、死ね、死んじまえ、俺以外の男なんざ爆発してしまえ!そして弱気な敗北者であった俺達も死ね!

…………リアル過ぎますね。この抜き出した箇所だけを見ると暗い感じかもしれませんが、あくまで笑わせる一環・・・ですよ?(と言いつつも自分の心にぐさりと刺さる)

こんな柏木が神業を使ってモテるように。ドン底から一気にリア充へ。夏休みは水着のお姉ちゃんたちと遊ぶ毎日。これはこれで自堕落なダメ人間生活。ところが、ふと手に入れた女性にモテる能力も暴走をはじめて・・・・っ!ここからは、暴走した能力によって暴徒の群れが集う小樽・札幌、そして北海道を救うために、デシ子のもとへ。妙な緊張感と、アメリカン・タフガイに変貌を遂げた明津や野人・大塚による馬鹿らしさが同居したままラストへ突入します。っていうか、タフガイ明津気持ち悪い。

確かに柏木はクズでダメ人間。でも、私は柏木のことが嫌いになれない。柏木って内面は良い奴。だって、あんなに手ひどく振られても、女のことを嫌いなれない。

ふられたり、嫌なところを見たくらいで、オレは奴らを嫌いになれないでいた。心のなかに住む奴らを消せずにいたのだ。だが現実の奴らは俺のことなんか好きでもなんでもない。

137ページの台詞。
柏木は、理解されたい。そして女の子を理解したい。女の子を理解できない怖さ。女の子との埋めることが出来ない絶望的な距離。

どうしたら愛されるのかわからない以上、同様にどうして嫌われてしまうのかだってわからなかった。

207頁より。結局、柏木は女の子が欲しいが、女の子が怖かったのだ。

異性に対してオレには恐怖しかない。俺にとって女たちは美しく、可憐で、愛おしく、それでいて、世の中でもっとも恐ろしい怪物だった。

だから柏木は、簡単にモテる能力が欲しい。でもそれは、女の子を理解することを放棄しているのだ。理解していないままモテても、虚無でしかない。

柏木自身は、自覚していないかもしれないけど、十分にデシ子のことを理解していると思う。デシ子は妹・・・ていうか嫁状態。特に最後の夫婦げんか・・・っぽい台詞。

現実の女の子を理解できない怪物と捉えて逃げてしまう。女の子を理解する努力さえも放棄してしまう。あああああああ・・・・・・・・なんて自分のことをっっっっ!!!!!この精神的童貞野郎。うわぁーーー、コメディ調の作品なのに、ぐさりぐさりと内面を突き刺す、本当の辛さ。多分、私と作者の精神構造が似ている・・・・のか。

これ、面白いです。1巻も面白かったが、2巻も。本当のダメ人間を経験したことがある人向け。良い子の作品が欲しい人には受けないが、一定の需要は絶対にある。

※補足
前作の感想を書いたら小樽商科大学の学生の方がコメントをしてくれました。そのとき作品に登場するお店や内容は本当のことらしいということなので色々と調べてみました。

…か?イマイチ自信はないけど、多分これ。

おおっ!結構ありますねぇ。自分も仕事で小樽に行ったことがあるので、そのときの様子を思い出しながら色々と調べてみました。確かに旭展望台は行ったなぁ。仕事の合間に一人で、だけど。