江波光則「パニッシュメント」

パニッシュメント (ガガガ文庫)

パニッシュメント (ガガガ文庫)

・・・これは、ある意味で表紙詐欺だと思う。いや、この作品が面白くない、という意味ではなくて。

面白いか、面白くないか、と問われたら、間違いなくこの本は面白い。絶対にこれは譲れない。でも、表紙の雰囲気や、「お前ら結ばれたくないのか!?あえて結びたくないのか!?誰もがローリングする怒涛の恋!」と書いてある帯とは、雰囲気が全く違う。

たしかに、恋愛関係や三角関係は存在しているが。存在していることは認めるが。むしろ、前作のストレンジ・ボイスのような表紙や帯のほうが雰囲気に合致しているかもしれない。

小説の中身は、新興宗教の教祖様の息子・郁を主人公とするもの。恋愛要素などはありますが、それよりも、突きつける課題は、人間は何かに縋って生きているのか、というものかもしれない。

人が縋るものを奪い取ること。人に縋ること。人ではないものを創り上げて縋ること。自分が権力者になることの優越感。縋ることがさらに上位に行くと、もう、どうしようもなくなる。でも、ふつうじゃない人は、縋ることで、周りとのコミュニケーションを手に入れる。神に縋るというそれだけで、自分が特別な人間になれるんだから。今まで見下していた、あるいは疎まれていた周囲に対する優越感を手に入れることができるんだから。

ラストの七瀬のセリフ。教祖を殺したナイフを手に入れた七瀬は、教祖への殺人を自分のことにする。「私、神様を殺した女になる。そうしたら、きっと、この先、大丈夫だから」。結局、七瀬は、教団の中でも得意な存在になりたかった。それで、「神様を殺した女」という特異な地位に縋る。それをアイデンティティーとして生きる。

人が縋るのは止められない。ひょっとしたら、それは「愛」だとか「恋」だとかに名前は変わっているかも知れないが、本質的には、縋っている。生きるために縋っている、それだけなのかもしれない。