ブギーポップがわらっていない頃のお話

さて、今回の記事は、私が個人的に実践している《名作ラノベを読み返してみようシリーズ》の一つです。ここ最近(GWのあたり)、ブギーポップシリーズを読んでいました。本当は全部読みきろうと思っていたんですが、なかなかそうも行かず。とりあえず5巻まで(歪曲王)読み終えました。このシリーズについては、いろんな人が、いろんなコトを言いたいと思うし、現に語っているので、私が付け加えることはない、と思います。ここで書くことは、あくまで5巻まで読んだ、私なりの理解・反応を記すだけです。ちょいと総論っぽい話多めです。

お話の中身。世界に危機が生じたときに、宮下藤花に《自動的に発現》するブギーポップブギーポップよりも、周囲に登場する登場人物たちの群像劇。これが読者にヒットした点(=心を掴むポイント)は、いくつか考えられると思います。
1.ブギーポップのキャラクターとしての異常さ。圧倒的に強い存在でありながら、世界の危機に現れるときにしか登場しない。たしかにこの意味ではヒーローであるんだけど、よくあるスーパー戦隊シリーズウルトラマンのような性格でもない。

2.やはり、群像劇なりに多視点だろうな。伏線を練りこんでいて、いろんな人物を再登場させる、ふとしたところで縁を作らせるなどの仕組み。オタク的な探究心を満足させにれるのはもちろん、キャラクターに愛着がわく。
さらに、群像劇・多視点であることによって、同じ現象や同じ物に対して、多様な解釈を提示している点でしょうね。すれ違い、人の持っている弱さや悩み。それだけではなくて、喜びと共感も。そして、人とのかかわりを多視点から描くことにより、登場人物たちの成長も描かれる。例えば、最初は相手にもしていなかった霧間凪も「友人を危険な目に合わせたくない」とまで言うように。

3.その他として、背後に控える謎組織(統和機構)の匂いもあるだろう。なにより。シリーズのなかで対決するような雰囲気。謎、不可解な雰囲気というのは、作品すべてがそうかも。ちょっとした異能や不思議能力系の登場人物は、すべての作品で登場している。っていうか、まともな一般人はいないのかw

4.この本が心を掴むのは、霧間誠一をはじめとして、直感的な訴求力を持つ名言だと。一つばかり例をあげると、「この世に確たる真実などないように、完全な嘘もまた存在しない」*1というもの。語録については様々な人がまとめているので、ちょいとぐぐれば出てきます*2

たしかに、これは、今のラノベ(「何か+萌え」とを軸とする作品)とは違う。ガンガン人が死んでいくし、惨殺や暴力シーンもある。美少女たちに萌えろ、という作品でもない。まあ、そういう読み方も出来ないわけではないんだけどね。例えば、霧間凪や宮下藤花というキャラクターに萌えようと意識すれば可能。でも、ここでの強調点は、萌えを目的とした作品ではないのは明らかだということ。第一、このころには「萌え」という概念が存在していない。

当然だけど、エンターテイメントには流行り廃りがある。時代が異なれば、内容が異なる。さらに、読者層も違う。

ただし、これをもって「90年代末、2000年頃のラノベとは」と語るのは危険。90年代の二次元文化を語る際に、エヴァンゲリオンをはじめとするセカイ系にばかり注目が集まり、お気楽日常系作品や美少女もの(代表的な例として、あかほりさとる)が無視されていることを常に戒めるとくめーさんの記事を参照。「通史」として描かれた歴史には、カウンター・ストーリーが付きまとうことに注意しなければならないだろう。

実際に、ブギーポップの巻末広告には美少女系のモノも登場している。

これは、電撃G'sマガジンの広告。ねっ?この広告でも「美少女」を全面に出しているでしょう?それ以外にも、これ。

これは、阿智太郎僕の血を吸わないで」の広告。ねっ?たしかに絵柄はちょっと古いけど、今のラノベでもありそうな表紙でしょう?この人が今でもラノベ作家として生存しているように、そして今でも表紙の構図(たとえば、MF文庫から出ている「魔界ヨメ!」シリーズ。表紙観たかったら、amazonでも行ってください)は大して変わっていないように、お気楽美少女モノというのは存在していたんです。それを「萌え」と呼ぶかどうかは、言葉・概念が生まれたかどうかという状況に依存するだけで、現在で「萌え」る行為というのは、本質的には、90年代も存在していた。そして、《美少女を愛でる》エンターテイメントは、そのときからも存在していたんだ、と。

(なんかブギーポップのことあんまし語ってなくね?)
(・・・・ま、まぁいいじゃん)

*1:VSイマジネーターpart2.187頁

*2:例えば、こんなの→http://www.iris.dti.ne.jp/~niino/xanadu/novel/kadono/boogie/kirima.html