犬村小六「サクラコ アトミカ」

サクラコ・アトミカ (星海社FICTIONS)

サクラコ・アトミカ (星海社FICTIONS)

とある飛空士の追憶、恋歌と来て、今度は別な出版社から全く別の物語。

でも、ボーイ・ミーツ・ガールは変わらない。最強の怪物・ナギと、絶対の美を持つサクラコ。読んでいて感じたことは、サクラコの、想像を絶するような過去。サクラコは、台詞からするとかなり前向きで、積極的なヒロイン、というイメージ。しかし、絶対の美をもつが故に、必ずしも幸せな生活だったとは思えない。

例えば、150頁。赤司が、サクラコの美しさに心をうばわれるとき。赤司の獣性がほとばしる様子に、サクラコは、されるがままになるしかない、と覚悟を決める。なんども経験していることを思わせる態度。さらに、186頁では、自分が奇形腫から発生したものだと、告白する。でも、サクラコは、人の定義に自らが入るかどうかを問題にしない。

オルガによって作られた怪物・ナギには美を、感じる心がない。だから。サクラコの美を感じ無い。だからこそ、普通に接してくる態度に覚えた、最初の違和感が恋に変貌するのにそれほど時間がかからなかった。

サクラコとのデートを積み重ね、ナギには、サクラコへの説明ができない想いを感じる。

「わらわにはこころがある。容れものがどう造られようと関係ないわい」
「こころがあればいいよ。だからおんしもバケモノではない。心を持たぬものがバケモノじゃ」(187頁)

恋する怪獣*1。幻妖は進む。丁都を目指して、まっすぐに。意志を曲げず、ただ、サクラコを架空ために。最後、幻妖となったナギと、黒騎士となったオルガとの対決シーンは、映画にでもなったような戦いっぷり。こーいうのは大好きです、個人的に。幻妖なっても、サクラコを救う。本当にただそれだけなんだけど、ナギくんの固い決意と強さには、読む側も興奮します。直球ものですが、こういうのもいいですねっ

*1:283頁